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2023/06/14
労働基準法
労働契約関係・裁量労働制に関する法改正

1. はじめに
令和5年3月30日に労働基準法施行規則等を一部改正する省令等が公布・告示されました(施行は令和6年4月1日)。主な変更は次の通りです。
- 無期転換ルールの見直し
- 労働契約関係の明確化
- 裁量労働制を導入・継続する場合の手続きの追加
従業員の労働条件の明示等、実務的な変更も多く求められており、社会保険労務士や企業の実務担当者など、多方面から注目を集めております。
これから、この改正について詳しく見ていきたいと思います。
2. 今回の改正概要
労働条件の明示ルールの変更について
従業員が入社する際には、雇用契約書や労働条件通知書によって労働条件が明示されることが求められています。さらに労働基準法施行規則には、明示すべき項目が定められており、厚生労働省のウェブサイトでも確認することができます。
参考:厚生労働省 採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。
従来から労働条件の明示事項は定められていましたが、今回の改正により新たな項目が追加されることとなりました。
追加される明示事項 | 明示のタイミング |
1.就業場所・業務の変更の範囲 | 全ての労働契約の締結時と、有期労働契約の更新時 |
2.更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容 | 有期労働契約の締結時と更新時 |
3.無期転換申し込み機会 4.無期転換後の労働条件 | 無期転換ルールに基づく無期転換申し込み件が発生する契約の更新時 |
追加される明示事項について、詳細を確認していきます。
- 就業場所・業務の変更の範囲
従来の労働条件の明示に加え、新たな明示事項として、就業場所と業務の変更の範囲が加わりました。雇い入れ時だけでなく、有期労働契約の更新の都度、明示する必要があります。将来的に変更される可能性がある場合は、その変更の範囲をカバーする必要があります。 - 更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容
有期労働契約の更新回数や通算契約期間の上限を設けている場合、その内容を明示する必要があります。また、新たに更新上限を設ける場合や短縮する場合は、あらかじめ有期契約労働者に説明する必要があり、これまで口頭による説明であった場合でも、今後は書面等で明示することになります。 - 無期転換申し込み機会
無期転換申し込み機会は、無期転換が可能な契約更新の度に明示します。一度説明するだけでは足りず、申し込みが行われない場合でも、契約更新ごとに明示が必要です。 - 無期転換後の労働条件
無期転換申し込み機会と同様に、無期転換後の労働条件も契約更新の度に明示します。例えば、令和6年4月1日時点で契約更新時に無期転換を申し込まなかった従業員についても、その翌契約更新時に再度説明が必要ということになります。
また、無期転換後の労働条件を決める際には、正社員やフルタイム労働者とのバランスを考慮した事項についても説明することになり、これらの明示事項は、無期転換申し込み機会が発生する更新の度に行います。単に雛形の修正を行うだけで良いとは限らないことに注意しましょう。
■裁量労働制の変更点
1日8時間、1週40時間、毎週少なくとも1日の休日を与え、それを超えて労働させる場合は時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)を締結するという労働時間の原則があります。この例外として裁量労働制が用意されています。
裁量労働制には専門業務型裁量労働制(以下、「専門業務型」という)と企画業務型裁量労働制(以下、「企画業務型」という)があります。
専門業務型は、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に従業員の裁量に委ねる必要がある業務として法に定められた業務の中から対象となる業務を労働者と使用者で定め、その業務に就かせた場合、予め定めた時間働いたとみなす制度です。企画業務型は、企画立案・調査分析を行う従業員を対象としたもので、要件を満たす業務に就かせたときに、その事業場に設置された労使員会で決議した時間を労働したものとみなす制度です。
裁量労働制の具体的な制度設計は各企業によって異なります。対象業務や運用制度について改正されることとなったので、そちらを確認していきます。
- 専門業務型対象業務の拡大
専門業務型に、新たに「銀行または証券会社における顧客の合併および買収に関する調査または分析およびこれに基づく合併および買収に関する考案および助言をする業務」が追加されました。M&Aなどの買収のアドバイザー業務を行う労働者も今後、専門業務型の対象ということになりました。
- 専門業務型、企画業務型裁量労働制の運用についての改正
主な変更点と対象となる制度は以下の通りです。
要対応事項 | 対象制度 |
1.本人同意を得る・同意の撤回の手続きを定める | 専門業務型/企画業務型 |
2.賃金・評価制度を労使委員会に説明する | 企画業務型 |
3.労使委員会は制度の実施状況の把握と運用改善を行う | 企画業務型 |
4.労使委員会を半年に一度開催する | 企画業務型 |
5.定期報告頻度の変更 | 企画業務型 |
- 同意取得と撤回の手続き
従業員に裁量労働制を適用させる場合、本人からの同意を得ることが必要になります。この際、同意しなかった労働者について不利益な取扱いをしないことを労使協定に定めなければなりません。 - 賃金・評価制度の説明
使用者は、対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容について説明する必要があります。その説明項目などを労使委員会の運営規定に定めなければなりません。この賃金・評価制度を変更する場合、その内容を説明することを労使委員会の決議に定めます。 - 制度の実施状況の把握と運用改善
労使委員会は制度趣旨に沿った適正運用の確保に関して労使委員会運営規程に定める必要があります。 - 労使委員会の開催頻度
労使委員会の運営規程に、6か月以内ごとに労使委員会を開催することを定めなければなりません。 - 定期報告頻度
労使委員会の決議の有効期間の始期から起算して6か月以内に1回、その後は1年に1回、定期に報告することになります。
参考:厚生労働省 事業主の皆さまへ 裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です
3. まとめ
令和6年4月1日から変更されるルールではありますが、労働条件の明示ルールと裁量労働制の変更は、企業の担当者が新たに対応しなければならない事項が多いため、早めの対応が重要です。厚生労働省のウェブサイトでは、新しい労働条件通知書の雛形も公開されています。法改正施行日を待たずに、可能な範囲から導入していくことも検討するとよいでしょう。