TOP労務コラム職場におけるLGBTQ対応② LGBTQに関するハラスメントの事例

職場におけるLGBTQ対応② LGBTQに関するハラスメントの事例

KiteLab 編集部
2022.03.13

中小事業主のパワハラ防止措置義務化(2022年4月1日施行)を前に、ハラスメント防止対策の一環として、職場におけるLGBTQ対応について3回に分けてご紹介していきます。1回目の「職場におけるLGBTQ対応① LGBTQとは」はこちらからご覧ください。
2回目の今回は、何がSOGIハラやアウティング等に該当するのか、いくつかの事例からポイントを整理していきます。まずはじめにパワハラの定義を確認していきましょう。

職場におけるパワーハラスメントとは

3つの要素

職場におけるパワーハラスメントとは、職場において行われる
① 優越的な関係を背景とした言動であって、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるもの
であり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
※客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。

優越的な関係を背景とした言動とは

業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が行為者とされる者に対して抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指します。

業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動とは

社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指します。

労働者の就業環境が害されるとは

当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。

代表的な6つの類型

代表的な言動の類型(イ) 該当すると考えられる例 (ロ) 該当しないと考えられる例
(1)身体的な攻撃
(暴行・傷害)
① 殴打、足蹴りを行う
② 相手に物を投げつける
① 誤ってぶつかる
(2)精神的な攻撃
(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
① 人格を否定するような言動を行う。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む。
② 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う
③ 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う
④ 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信する
① 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をする
② その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をする
(3)人間関係からの切り離し
(隔離・仲間外し・無視)
① 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする
② 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる
① 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施する
② 懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせる
(4)過大な要求
(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
① 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる
② 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する
③ 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる
① 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる
② 業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せる
(5)過小な要求
(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
① 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる
② 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない
① 労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減する
(6)個の侵害
(私的なことに過度に立ち入ること)
① 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする
② 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する
① 労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行う
② 労働者の了解を得て、当該労働者の機微な個人情報(左記)について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促す
出典:パンフレット「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」(厚生労働省)

こんな言動はパワハラに該当する?


事例1     AさんとBさんは同じプロジェクトを進めるグループに所属している。グループのリーダーであるBさんがAさんに対し、「今のしゃべり方なんかオカマっぽいね、もしかしてホモ?俺のことを狙うのは勘弁してくれよ」とからかった。
3要素① 優越的な関係を背景とした言動であって
BさんはAさんと同じプロジェクトグループのリーダーであるため、業務遂行上、AさんがリーダーBさんに対して抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景としているといえるでしょう。

② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
業務上明らかに必要性のない言動です。

③ 労働者の就業環境が害されるもの
Bさんの言動により、Aさんにとって就業環境が不快なものとなり、今後能力の発揮に重大な悪影響が生じる可能性が考えられます。
6類型精神的な攻撃(侮蔑)
同僚ということで軽い気持ちでからかったBさんですが、オカマやホモといった表現は相手の性的指向・性自認に関する侮蔑的な言動、SOGIハラに該当します。

❢POINT
厚生労働省通達において、「『相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うこと』については、相手の性的指向・性自認の如何は問わないものであること。」と示されています。つまり、本人がLGBTQでなかったとしてもSOGIに関する侮蔑的な言動はパワハラになるのです。
また、同通達において「一見、特定の相手に対する言動ではないように見えても、実際には特定の相手に対して行われていると客観的に認められる言動については、これに含まれるものであること。」としています。
今回の事例は直接的に本人に向けられた言動でしたが、そうでない場合でもパワハラになり得るということも押さえておくべきポイントです。
出典:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第8章の規定等の運用について(厚生労働省 雇均発0210第1号)

事例2     ゲイであることをカミングアウトしているCさん。業務上のミスをしたCさんに対し、上司であるD課長が「これだからゲイには仕事を任せておけないんだよな」と言った。
3要素① 優越的な関係を背景とした言動であって
D課長はCさんの上司であり、優先的な関係を背景とした言動に該当します。

② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
Cさんの業務上のミスに対する言動として、社会通念に照らし、相当な範囲を超えたものといえます。

③ 労働者の就業環境が害されるもの
D課長の言動により、精神的に苦痛を与えられ、Cさんの今後能力の発揮に重大な悪影響が生じる可能性があります。
6類型精神的な攻撃(侮蔑)
本人のSOGIと業務遂行能力とは関係はないものと言えるでしょう。
Cさんに対する上司のDさんの発言は「ゲイ=仕事を任せられない」と読み取ることができます。LGBTQであることを見下す侮蔑的な言動であり、SOGIハラに該当します。

事例3     Hさんは、日頃何かと業務のサポートをしてあげている同僚のGさんからトランスジェンダーであることを打ち明けられた。どう対応したらいいか分からなくなったHさんは、Gさんの同意なく、後輩のIさんに「相談があるんだけど・・・Gさんからトランスジェンダーだとカミングアウトされて・・・どうしたらいい?」と話した。
3要素① 優越的な関係を背景とした言動であって
GさんはHさんの同僚であり、日頃からHさんに仕事のサポートをしてもらっています。
役職的な上下関係はありませんが、同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるものは、優越的な関係を背景とした言動に該当します。

② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
業務上明らかに必要性のない言動といえます。

③ 労働者の就業環境が害されるもの
Hさんの言動により、Gさんにとって就業環境が不快なものとなり、今後能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、Gさんが就業する上で看過できない程度の支障が生じる可能性があります。
6類型個の侵害
HさんはGさんからカミングアウトされ対応に困り、後輩Iさんに相談するため、Gさんの同意なく、Hさんがトランスジェンダーであることを暴露しました。Hさんに悪意がなかったとしても、この行為は、労働者の性的指向・性自認等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること、個の侵害に該当します。

❢POINT
本人の同意なく、その人の性的指向・性自認等に関する情報を第三者に暴露することを「アウティング」といいます。
アウティングの違法性については、一橋大学法科大学院事件(東京高裁令2.11.25判決)において、「人格権ないしプライバシー権などを著しく侵害するものであって、許されない行為であることは明らかである」(一部抜粋)と判示されています。
職場でのアウティングについて法律上の定義はありませんが、一橋大学法科大学院がある東京都国立市では、平成30(2018)年4月1日にアウティングの禁止を盛り込んだ初めての条例「国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」を制定し、アウティングについて次のように規定しています。

(基本理念) 
第 3 条
(2)性的指向、性自認等に関する公表の自由が個人の権利として保障されること。 
(禁止事項等)
第 8 条 
2 何人も、性的指向、性自認等の公表に関して、いかなる場合も、強制し、若しくは禁止し、又は本人の意に反して公にしてはならない。
出典:国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例(国立市)
(アウティングに関する部分のみ一部抜粋)

事例4     トランスジェンダーであることを上司LさんにカミングアウトしたKさん。翌月になって突然人事異動が発令され、Kさんはこれまでの顧客対応から単純なデータ入力業務に担当変更となった。上司Lさんにその理由を尋ねると、「業務上の都合だから」と一言。詳しい理由は説明されなかった。
3要素① 優越的な関係を背景とした言動であって
LさんはKさんの上司であり、優先的な関係を背景とした言動(人事異動の発令)といえるでしょう。

② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
顧客対応から単純なデータ入力業務に担当変更する合理的な理由が説明されないようであれば、業務上明らかに必要性のないものと判断される可能性があります。

③ 労働者の就業環境が害されるもの
単純なデータ入力業務への担当変更により、身体的又は精神的に苦痛を与えられ、Kさんにとって就業環境が不快なものとなる可能性が考えられます。
6類型過小な要求
Kさんが上司Lさんにトランスジェンダーであることをカミングアウトしたことをきっかけとして、業務上の合理性なく、これまでの顧客対応から単純なデータ入力という、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じた場合、過小な要求に該当する可能性があります。

まとめ

  • たとえ軽い気持ちであっても、相手の性的指向・性自認に関する侮蔑的な言動はSOGIハラになる
  • SOGIハラにおいて、相手の性的指向・性自認の如何は問わない
  • 悪意がなかったとしても、労働者の性的指向・性自認等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること=アウティングは個の侵害に該当する

今回の事例はあくまでも一例です。ケースによっては6類型のうち複数の言動に該当することも考えられます。SOGIハラ・アウティング防止という観点から、改めてパワハラの3要素および6類型を確認してみてはいかがでしょうか。
最終回は職場における具体的なハラスメント対応について紹介します。

コラム ~カミングアウトの語源~

カミングアウトという言葉は今や皆さん聞き馴染みがあるワードですが、元々はアメリカの人権活動家ハーヴェイ・ミルクが呼びかけた”Come out of the closet.”であったと言われています。
ハーヴェイ・ミルクはアメリカで初めてゲイを公表し、公職者(カリフォルニア州サンフランシスコ市の市会議員)として当選した人物として知られています。
彼はゲイであることを隠している状態のことを”クローゼットに閉じこもっている”と表現し、セクシャルマイノリティに対し、「クローゼットから出てきて自分のセクシュアリティについて身の回りの人々に公表しよう」と呼びかけました。

彼の残した言葉でもう一つ有名なものがあります。
”Hope will never be silent.” 希望は沈黙しない
ハーヴェイ・ミルクはセクシャルマイノリティに限らず差別や偏見・不平等に苦しむ人々のために声をあげることの意義を訴え、人権活動に尽力しました。

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