2022/02/07

  • 労働基準法

労災申請をスムーズに行うために 〜8号様式の3つの注意点〜

労災申請をスムーズに行うために 〜8号様式の3つの注意点〜

社労士の業務の一つに労災等の請求の事務代行があります。労災等の請求は、労働者が業務上又は通勤途中に負傷をし、療養のために労働できなかった期間に対して、休業(補償)給付を請求するためのものです。

休業(補償)給付は労働者の賃金の代わりとなるもので、生活の糧となるものです。そのため、社労士先生におかれましても迅速かつ正確に請求書を提出する必要があります。しかし書類の不備があると請求人等に不備返戻を行うため、労災の支給の決定が遅れてしまうことがあります。そこで今回は8号様式における注意すべき不備事項について解説します。

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本記事のポイント

今回のテーマの主なポイントは次の3つです。

  1. 療養のため労働できなかった期間の初日
  2. 療養のため賃金を受けなかった日
  3. 療養のため労働できなかったと認められる期間

特に、3の「療養のため労働できなかったと認められる期間」における不備事項は、労働者本人や社労士事務所に不備返戻するのではなく、医療機関へ直接送付することがあります。社労士の方であっても意外と気づかない点について解説を行います。
※この記事では、事例の多い「骨折」「捻挫」「裂傷」等の傷病を例に上げています。「新型コロナウイルス」にり患した場合、その他特殊な事情がある場合には管轄の監督署に問合せをお願いいたします。

1 療養のため労働できなかった期間の初日について

様式第8号には「⑳療養のため労働できなかった期間」(以下「労働できなかった期間」という。)を記載します。

労働できなかった期間の初日を誤って記載すると、後に続く暦日数や、「㉑療養のため賃金を受けなかった日(以下、「賃金を受けなかった日」という。)の日数も誤った記載となります。そのため労働できなかった期間の初日について理解をし、適切に記載をしなければなりません。
労働できなかった期間の初日を正しく記載するためのポイントは①負傷当日の状況、②受診日、③休業開始時期の3点です。以上3点を踏まえながら4つの事例にて解説を行います。

①負傷当日は早退をして、当日に受診をした場合

負傷当日に早退をした場合で、かつ受診日が負傷当日の場合は、「労働できなかった日の初日」は「当日」です。。

負傷当日の状況受診日休業開始時期労働できなかった期間の初日
早退当日(休業が必要との診断)当日当日

     

以上のように「①負傷当日に早退をした」「②当日に受診をして休業を要する診断がおりた」「③実際に当日から休業した」場合の「労働できなかった期間の初日」は「当日」です。実際の例を見てみましょう。

下記のケースであれば、労働できなかった期間の初日は6月1日です。

負傷当日の状況受診日休業開始時期労働できなかった期間の初日
6月1日、早退6月1日(休業が必要との診断)6月1日6月1日

②負傷当日は最後まで勤務、又は、所定労働時間外に負傷し、業務終了後の当日に受診をして、翌日から休業した場合

負傷当日に最後まで勤務をした場合、又は、所定労働時間外に負傷した場合は、負傷当日は「労働できなかった日」には含まれず、「労働できなかった期間の初日」は「翌日」です。

負傷当日の状況受診日休業開始時期労働できなかった期間の初日
最後まで勤務、又は所定労働時間外に負傷当日(休業が必要との診断)翌日翌日

 

下記のケースであれば「労働できなかった期間の初日」は6月2日です。

負傷当日の状況受診日休業開始時期労働できなかった期間の初日
6月1日、
最後まで勤務
6月1日
(休業が必要との診断)
6月2日6月2日

③負傷当日以降に受診をした場合

負傷当日に受診をせず負傷日以降に受診をした場合、「労働できなかった期間の初日」は「受診日以降」です。

負傷当日の状況負傷後の状況受診日休業開始時期労働できなかった期間の初日
早退、又は最後まで勤務、又は所定労働時間外に負傷通常通り出勤 or 自宅療養数日後受診(休業が必要との診断)受診日以降
(受診日に就労をしている場合を除く)
受診日以降

   

では、実際の例を見てみましょう。

ケーススタディ③負傷当日の状況負傷後の状況受診日休業開始時期労働できなかった期間の初日
6月1日に早退、又は最後まで勤務、又は所定労働時間外に負傷6月1日~6月4日通常通り出勤、又は自宅療養6月5日(出社をせずに受診し休業が必要との診断)6月5日6月5日

労働できなかった期間は、療養ため労働できなかった期間ですから、医学的な根拠が必要です。そのため、労働できなかった期間の初日は(原則として)受診日以降です。

④受診日以降に出勤した場合

負傷当日に受診をせず負傷日以降に受診をしたものの、その日以降に出勤した場合、「労働できなかった期間の初日」は「休業開始日」以降です。

負傷当日の状況負傷後の状況受診日休業開始時期労働できなかった期間の初日
6月1日に早退、又は最後まで勤務、又は所定労働時間外に負傷通常通り出勤、又は自宅療養6月5日(出社後に受診し全休の診断がおりた)6月6日は通常通り出勤(引継等のため)6月7日から休業6月7日

上記のケースは出社後の6月5日に受診し、かつ、6月6日は出勤をしているため、「労働できなかった期間」の初日は6月7日です。

2 賃金を受けなかった日について

賃金を受けなかった日についても、注意が必要です。

ここでのポイントは①初回申請の場合は待期期間を必ず含めること、②療養のため労働できなかった場合は所定休日を含めること、③待期期間以外で有休等を取得した場合はその日は除外することです。3つのポイントを踏まえて解説を行います。

 

①初回申請時の待期期間について 

初回申請時の待期期間について、3日間は必ず算入して記入をしてください。請求書を監督署で受理した際には請求書を機械に通して、審査用の書面を打出してから審査を始めます。その際、初回の休業補償請求の場合、「賃金を受けなかった日」については、自動的に3日間控除されます。
そのため待期3日間は控除をせずに記載をする必要があります

6月1日(月)6月2日(火)6月3日(水)6月4日(木)6月5日(金)
6月1日
早退・受診・診断
有休所定休日労災休労災休
待期①(1)待期②(2)待期③(3)(4)(5)

*賃金を受けなかった日のカウント

このように待期期間に有休や所定休日があったとしても、療養のため労働ができなかった場合であれば、「賃金を受けなかった日」について待期期間を含めて記載をしてください。

②労働できなかった期間に公休・所定休日がある場合

下記のとおり医師が、療養のため6月1日から6月9日まで労働できなかったと証明した場合は、所定休日についても「賃金を受けなかった日」と取扱います。

6月1日(月)6月2日(火)6月3日(水)6月4日(木)6月5日(金)
負傷早退・受診有休所定休日労災休労災休
待期①(1)待期②(2)待期③(3)(4)(5)
6月6日(土)6月7日(日)6月8日(月)6月9日(火)6月10日(水)
労災休(公休)労災休(公休)労災休労災休復帰
(6)(7)(8)(9)        

上記のような場合、賃金を受けなかった日は9日となります。

③待期期間の日以外で有休を取得した場合又は全部就労した場合

6月1日(月)6月2日(火)6月3日(水)6月4日(木)6月5日(金)
負傷早退・受診有休所定休日有休有休
待期①(1)待期②(2)待期③(3)               
6月6日(土)6月7日(日)6月8日(月)6月9日(火)6月10日(水)
労災休(公休)労災休(公休)就労(全部就労労災休復帰
(4)(5)(6)

以上のように待期期間の日以外で有休・全部就労をした場合は、その日は除外するため、賃金を受けなかった日は6日となります。

3 療養のため労働できなかったと認められる期間

医師証明欄「㉛療養のため労働することができなかったと認められる期間」(以下「労働することができかなったと認められる期間」という。)について記載ミス、或いは「⑳労働できなかった期間」との整合性がとれず不備返戻となる場合があります。
そのため医師証明をうけ医療機関より8号様式が返却された場合は、「労働できなかった期間」、「賃金を受けなかった期間」等と整合性がとれているかの確認が必要です。
この記載ミスの原因は医師(或いは事務スタッフ)の誤認、労働者(或いは会社)が誤った指示をしたことが挙げられます。

①通院日しか記載しない

医師(あるいは事務スタッフ(以下同じ))が、全期間休業が必要であるにもかかわらず、「労働することができなかったと認められる期間」に通院日しか記載しないケースもあります。これは医師が間違って記載したものと思われます。
ただし、負傷等の程度が軽微なもので、全期間の休業は必要ないと医師が判断した場合、通院日のみの記載が行われることがあります。この場合は適切な処理といえます。
なお、労災保険上「労働できない」とは「従来の業務に復帰できる状態」ではなく「軽作業も行えない状態」を指します。職場に軽作業が行える環境があるか否かは関係がありません。
この概念は健康保険の考えとは違うためご注意ください。

②労働者側からの指示

こちらは医師のミスではなく労働者(会社側)が指示をして記載をしたことにより誤った医師証明が行われる場合です。例えば「待期期間を除外して記載してください」「有休を取得したため1日除外してください」といったものです。
「労働できなかったと認められる期間」については、医学的に休業が必要である期間及び日数を記載するため、有休の取得や公休日等によって除外するものではありません。

また、諸所の理由により1日働いた場合(例えば6月1日から6月30日までの間のうち、6月15日のみ就労した場合)もあるかと思います。医師が「労働できなかったと認められる期間」に「6月1日から6月30日の30日間のうち29日間」と記載されると審査が滞る場合があります。6月1日から6月30日までの間で、どの29日間が医学的に労働できなかった日であるのか、どの1日が医学的に働けたかが判別できないためです。タイムカードの記録から6月15日と推測できる場合でも、確証を得ることができず、医師照会・不備返戻等を行い、審査が滞るときがあります。

なお、既に仕事に復帰をしており、リハビリのみの通院日のみ休業の対象であることが明白な場合で、タイムカードやレセプト等から判断できる場合はこのかぎりではありません。

まとめ

今回は8号様式における注意すべき不備事項について、3つのポイントを中心に解説しました。

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