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フリーランス新法とは?

KiteLab 編集部
2023.06.23

フリーランス新法成立の背景

コロナ禍を経て、働き方の多様化が急速に加速し、フリーランスという働き方を選択する人口は年々増加傾向にあると推測されます。政府も、フリーランスを含めた労働移動の円滑化や、自己実現できる働き方を推進しています。

他方、これまでフリーランスは、労働基準法をはじめとした労働関係諸法令が適用されないため、企業との取引上、弱い立場に置かれがちな側面もあり、かねてより「報酬の未払い、遅延」や「不当な取引条件」等、トラブルに巻き込まれる機会が多いことが問題視されてきました。

こうした状況を踏まえ、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」(いわゆる「フリーランス新法案」)が2023年4月28日に成立することとなりました。

以降は、便宜上「フリーランス新法」とします。

本記事では、フリーランス新法の概要、内容などを中心に解説していきます。

フリーランス新法とは

本法は、フリーランスの取引適正化と就業環境整備のための法律であり、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備することを目的としています。

対象となる当事者・取引の定義(フリーランス新法第2条)

対象となる当事者・取引については、以下のとおり定義されています。

◆定義◆

「特定受託事業者」:業務委託の相手方である事業者であって、次のいずれかに該当するもの
1. 個人であって、従業員を使用しないもの
2. 法人であって、1 の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。)がなく、かつ、従業員を使用しないもの

「特定受託業務事業者」:特定受託事業者である個人及び特定受託事業者である法人の代表者

「業務委託」:事業者がその事業のために他の事業者に
1. 物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。
2. 役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)

「業務委託事業者」:特定受託事業者に業務委託をする事業者

「特定業務委託事業者」:業務委託事業者であって、次のいずれかに該当するもの
1. 個人であって、従業員を使用するもの
2. 法人であって、二以上の役員があり、または従業員を使用するもの

「報酬」:業務委託事業者が業務委託をした場合に特定受託事業者の給付(役務の提供をすること)に対し支払うべき代金


以上のとおり、フリーランス新法が対象としているのは、フリーランスの中でも企業を相手に仕事を請負う「特定受託事業者」の取引です。

また、本法で保護されるのは、あくまでも業務を受託する側のフリーランス(特定受託事業者)のみであって、業務を委託する側の企業は保護されません。加えて、個人事業主であっても、従業員を雇用している場合には、対象となりません。一方、法人であっても、他の役員や従業員がおらず、一人で事業を行っている場合には、対象となります。

つまり、他者を雇わず一人で仕事をしている事業者は特定受託事業者(フリーランス)、他者を継続的に雇って仕事をしている事業者は特定業務委託事業者(個人事業主であっても法人であっても)です。但し、繁忙期に臨時のアシスタントを雇うなど、雇用保険の適用対象とならないような短時間・短期間の一時的雇用は、本法においては「従業員」には該当しないとされていますので、特定受託事業者とみなされ、対象となります。

特定受託事業者に係る取引の適性化

  • 取引条件明示(フリーランス新法第3条)
    特定受託事業者(以下「フリーランス」とします。)に対し、業務委託をした場合は、給付の内容、報酬の額等を書面又は電磁的方法により明示しなければならないこととされました。
    なお、この法律の中で、この取引条件明示だけは、フリーランス同士の取引でも必要になりますので留意しておく必要があるでしょう。
    本法では、取引に際し、給付の内容・報酬の額等を明示すべきとされているものの、具体的に明示すべき項目についてまでは明確には定義されていません。
    法施行までに、指針・ガイドライン等が公表されることが望まれます。
  • 支払期日(フリーランス新法第4条)
    発注者は、フリーランスが業務を完了・納品してから60日以内に報酬を支払う必要があります。
    再委託の場合は、元委託者からの支払期日から30日以内に支払えば問題ありません。
  • 特定業務委託事業者の遵守事項(フリーランス新法第5条)
    フリーランスとの業務委託(政令で定める期間以上のもの)に関し、①〜⑤の行為をしてはならないものとし、⑥・⑦の行為によってフリーランスの利益を不当に害してはなりません。
    ①フリーランスの責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること。
    ②フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること。
    ③フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品を行うこと。
    ④通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること。
    ⑤正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること。
    ⑥自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
    ⑦フリーランスの責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること。
    但し、規制の対象となる取引は「(政令で定める期間以上の)継続的業務委託」に限られています。単発契約も一定期間以上にわたって繰り返されていれば継続的業務委託とみなされるようです。

特定受託業務従事者の就業環境の整備

  • 募集情報の的確な表示(フリーランス新法第12条)
    広告等によりフリーランスを募集する際には、募集内容に虚偽の表示等がなく、正確かつ最新の内容とすることが求められます。
  • 妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮(フリーランス新法第13条)
    フリーランスが育児介護等と両立して業務委託(政令で定める期間以上のもの。以下「継続的業務委託」)に係る業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければなりません。
    フリーランスは会社で雇用される労働者と異なり、育児介護休業等を取得することや、休業中の経済的なセーフティネットがない、という問題があります。
    このことから、発注者は、フリーランスからの申し出に応じて、納期やスケジュールを調整するなどの配慮を義務付けたものです。これも、「(政令で定める期間以上の)継続的業務委託」の場合が対象になります。
  • 業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等(フリーランス新法第14条)
    特定受託業務従事者に対するハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置を講じなければなりません。
    発注者はフリーランスに対しても、ハラスメント相談窓口を使えるように周知するなどの措置が求められます。相談窓口に相談したことによる契約解除など、望ましくない行為も指針で明確化するとのことです。
  • 解除等の予告(フリーランス新法第16条)
    継続的業務委託を中途解除する場合等には、原則として、中途解除日等の30日前までにフリーランスに対し予告しなければなりません。

違反した場合等の対応(フリーランス新法第18条~第20条、第22条、第24条~第26条)

フリーランスに業務を委託する事業者がフリーランス新法に違反すると、公正取引委員会ならびに中小企業庁長官または厚生労働大臣により、助言や指導、報告徴収・立入検査などが行われます(履行確保措置)。また、命令違反および検査拒否などがあれば、50万円以下の罰金に処せられる可能性もあります。

また、フリーランス新法における50万円の罰金に適用されるのは法人両罰規定です。発注した事業者が違反行為を行えば、違反者当人だけではなく、事業主も罰則の対象です。

まとめ ーフリーランス新法に関する今後の動向ー

本記事においては、主要な部分を抜粋して解説させていただきましたが、新法は成立したものの、詳細な要件等については、公正取引委員会規則や厚生労働省令等を待つ必要もあります。

しかしながら、新法成立の動きによって、報酬の支払遅延や一方的な減額、ハラスメント等といったフリーランスのトラブル・紛争が防止され、働き方の多様化を促進するきっかけにもなるものと考えられます。

施行日が明確に定められているわけではないものの、原則は公布から1年6か月以内に施行されるため、遅くとも2024年には施行される見通しです。

まだ少し先の話にはなりますが、フリーランスやフリーランスに業務を委託する企業にとって影響が大きいと考えられる新法制定です。法の要点を抑え、現段階からあらかじめ準備を進めておくと良いでしょう。

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