TOP労務コラム【作成例を掲載】職務規程と就業規則の違いとは?重要性や作成手順を解説

【作成例を掲載】職務規程と就業規則の違いとは?重要性や作成手順を解説

KiteLab 編集部
2021.08.25

人事労務管理で重要な書類、規程、規則には、雇用契約書(労働条件通知書)、就業規則、労使協定と様々あります。雇用契約書は従業員を雇用した時、労働条件を伝えるのに必須です。就業規則は日々会社で働く上での様々な統一的ルールです。労使協定は従業員に残業や休日労働をしてもらうときに必要になる36協定(時間外労働・休日労働に関する協定届)が有名ですが、労働時間に幅をもたせることができる変形労働時間制に関する協定届もとても利便性が高いものです。

規程で考えれば、他に転勤規程、出張規程、定年再雇用規程、人事評価規程、懲戒規程、在宅勤務規程ときりがないくらい様々あります。その中で従業員のモチベーションを上げ、生産性を上げるうえで非常に大切な規程「職務規程」はご存じでしょうか?

職務規程の概要

職務規程とは会社の各組織で分担された業務を職位別に細分化し、その内容を明確に成文化した規程のことを指します

例えば食品会社の人事課に勤務しているAさんは人事という業務の中で労務管理という職務を行い、また同じ課のBさんは採用管理という職務を行っています。この労務管理、採用管理という職務がこの食品会社の職務規程に定められているということです。職務とは個々の社員が担当する仕事で、業務は会社の各部署で行われる事業の中で発生する一部の仕事です。

職務規程は実際には職務分掌規程や職務権限規程として策定されます。職務規程は職務の種類だけを定めているのに対して、職務分掌規程は会社の組織ごとの職務の分担を定め、その組織が分掌する業務範囲を明確にします。また職務権限規程は職務を行う各職位の職責と権限について定めたものです。

職務規定の目的と重要性

職務規程を策定する目的は会社組織の運営を円滑に効率的にすすめ、業績向上を図るためです。職務規程があれば、各職位の担当者は自分の職務内容を正しく理解することができ、職務行動の恣意性を防止することができます。どんな仕事を自分がするのか分からなければ、仕事が悪い意味で適当になってしまいます。

関連する規程として職務分掌規程、職務権限規程がありますが、これらは役職毎の権限や責任範囲を定義するもので、内部統制やリスクマネジメントを行うために必要な規程であり、IPOを考えている企業や、内部統制が必要な大企業等が作成する必要がある規程として理解しましょう。

他規程との違い

職務規程と聞いて、「あ、それ就業規則のことですね。うちの会社はもう作ってありますよ。」というようにおっしゃる方いらっしゃいます。普段労務管理のことはなかなか考える余裕のない事業主の方ですから、無理もないことですが職務規程は就業規則とは違います。

就業規則との違い

職務規程は職務に焦点を当てて定められた規程であるのに対し、就業規則は労働時間、賃金、退職などに関して、会社で働くために欠かせない全般的な重要な決まりを定めたものです。労働時間関係であれば、始業・就業時間、休憩時間、休暇など、賃金関係であれば賃金の決定・計算の方法、賃金の支払いの方法、賃金の締め切り、支払いの時期、昇給に関する事項など、退職関係であれば、退職の事由とその手続き、解雇の事由などです。

労働基準法においては、常時10人以上従業員を雇用している場合は就業規則を作成し、過半数組合または労働者の過半数代表者からの意見書を添付し、所轄労働基準監督署に届出をしなければなりません。そのような作成、届け出義務は、職務規程にはありません。

しかし、就業規則だけでは、社員は職場で一体どのような仕事を責任をもってすればよいのか分からなくなります。事業主は従業員のモチベーションを上げて生産性を高めることも難しくなります。したがって職務規程も就業規則と合わせてきちんと作成しなければなりません。

就業規則に関連する服務規程

社員は日々職務規程で定められた職務に取り組みますが、ただ仕事をすればよいというわけではありません。社員が毎日生き生きと仕事にまい進し会社が業績をあげていくためには、社員は会社の秩序を乱すことなく誠実に仕事を行う必要があります。そこで策定するものが服務規程、または就業規則内での服務規律です。

服務規程は会社で働く社員が守るべき最低限のルールを定めたものです。以下に数例あげます。

  • 職務専念義務:勤務時間を厳守し、勤務時間は自己の持ち場を離れないこと
  • 職場環境維持義務:会社内で賭博、喧嘩、セクシャルハラスメントその他これに類する行為を行わないこと
  • 秘密保持義務:在職中及び退職後に、職務上知り得た機密および会社の不利益となる事項を他にもらしてはならない

上記の内容は社会人として当たり前のことに感じられるかもしれません。しかし、例えば新入社員であればどうでしょうか。勉強しているときもスマホを使いながらです。ながらが必ずしも悪いわけではありませんが、けじめをつけるということがおろそかになる可能性があります。悪気はなくても、素敵な上司の方にじっと視線を向けるなんてこともあるかもしれません。服務規程を基にして職場で研修等を行っていればそのようなことは起こらないのではないでしょうか。そのためにも、就業規則から独立した服務規程もしっかりと作成しましょう。

職務規程の作成方法

実際に社員が仕事をする時は、職務の内容だけではなくその職務は誰が掌握するのか、誰がどういった権限を持って職務を果たすのかを知る必要があります。それらが示された規程があれば、各職位の担当者は、何が自己の職務かを理解し、その自己の職務を責任をもって遂行するための権限を一目で理解できます。そこで単なる職務規程ではなく、職務の権限、範囲をも定めている職務分掌規程を作成する方法を次に説明します。

職務規定の作成手順

まず最初に会社全体を把握するために、組織図を作成します。取締役会、社長を始め総務部、経理部、人事部、営業部、製造部から、総務人事課、営業課、経理課、店舗名まで組織を構成する全ての要素を書き出します。

次に、部署、職務単位で職務内容を細分化します。これを行うことによって各部署で重複している職務や非効率な作業を見つけることができます。

こうして職務が整理されたら、次は権限を振り分けます。権限の範囲を明確にすることで、責任の所在も明確になり、何か問題が起こった時にもスムーズな対処が可能になります。

そして最後に職務分掌表、職務分掌規程の作成を行います。規程の記載項目は①目的、②組織単位、③業務分掌、そして附則として④規程の改廃、⑤実施期日です。

職務規定の作成例

(目的)※①
 第一条
 この規程は、業務の効率的かつ円滑な遂行を図るための職務分掌を規程する
(組織単位)※②
 第二条
 この規程による組織の単位は組織図で示した機能別に編成された部・課とする。
(業務分掌)※③
 第三条
 各組織単位の分掌事項は次の各号に定める通りとする。
 <人事課担当業務>
1.要員計画に関する事項。
2.人事考課、業績考課に関する事項。
3.給与、賞与、その他諸手当、退職金、社会保険に関する事項。
4.労働者の採用、退職、解雇、休職、復職、異動に関する事項
5.労働者の勤怠管理に関する事項

 <~課担当業務>
1.~
2.~
(規程の改廃)※④
 第四条
 この規程の改廃は、総務部長が起案し、取締役会において行うものとする。
 附則
 この規程は令和3年8月1日より実施する。※⑤

職務規定を作成する際の注意点

ここまで職務規程の重要性、作成について述べてきましたが、特に注意する作業に気づかれたでしょうか。実際に作成しようとする際に一番骨が折れる作業かもしれません。職務と抽象的に考えることは簡単ですが、具体的に、より具体的に、もっと具体的に考えた場合、きちんと職務自体を整理できているでしょうか。

職務が整理されて明確になれば、賃金評価も容易になります。同一労働、同一賃金に対応しなければならない昨今、直ちにとりかからなければいけない課題です。同一労働同一賃金ということはまさに同一職務同一賃金です。実際にはいわゆる職務給の導入ということになります。この点からもきちんとした職務規程の準備をしておくことがとても重要です。

職務規定の重要性の高い項目

職務を整理するには、まず職務分析といって、各職務の内容、特徴、責任、権限、資格要件などを調査分析することで他の職務との違いを明確にすることが必要です。職務分析を行ったら職務記述書に具体的な職務内容、権限の範囲、期待される結果、必要とされる知識、技能、資格などを記入します。それをもとに、各職務の相対的な価値づけをおこなう職務評価を行います。こうして職務をきちんと評価整理した上で職務規程を作成することが重要となります。

職務規定の修正や改訂について

就業規則を修正したり改訂した時は、就業規則変更届を修正・改訂した就業規則と従業員からとった意見書とともに、労働基準監督署長に提出する必要があります。これは就業規則が届け出義務があるものだからです。一方職務規程は先に述べたように原則届出義務があるものではないので監督署への提出は不要で、社内で取り決めをした通り処理すれば足ります。

しかし職務規程であっても、その改訂内容が労働者の規律、労働条件など就業規則の内容と同様のもので従業員の全てに適用されるものである場合は就業規則と同一であり届け出義務が生じます。職務はその個人の仕事であり、その職務を規程しているものであれば原則届出は不要です。

その他注意点

職務内容を洗いだすときには、担当者にできる限り具体的に、職務内容と付随する役割や責任について確認することが重要。そのため社内アンケートやヒアリングを徹底し、できる限り現場の声を取り入れてください。各部署の担当者に不備や不足がないかを直接確認することも必要です。

加えて経営者に対しては、それらの職務に対して長中期的な会社の経営方針やビジョンと相違していなかどうかをしっかりと確認してもらう必要があります。木を見て森を見ずのことわざではありませんが、現場の担当者からの確認だけでは、せっかく作成した規程が会社の業績に貢献しがたいものとなる可能性があります。

職務規程に違反した場合

職務規程に違反した場合は、なぜ違反したのかきちんと当事者に確認し、原因をはっきりさせることが大切です。確かに規程規則は守るべき重要なものですが、やむを得ず違反を犯した可能性もあり、まずは管理者は違反した従業員としっかりと話しあいをすることが必要です。その上で、改善が見られないようであれば何等かの懲戒処分をすることが考えられます。懲戒処分とは会社の秩序と規律を維持する目的で、事業主が従業員の企業秩序違反行為に対して課す制裁罰と定義されています。

会社が懲戒処分をする場合はあらかじめ就業規則に懲戒規程を定めておく必要があります。具体的にはどんな言動が懲戒の対象になるか、どのような処分が課されうるかについてです。懲戒処分には、戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇があります。

まとめ

職務規程は就業規則といった他の規則同様、従業員を適切に管理し、会社の生産性をあげていくのにとても重要なものです。なぜなら整えられた規則・規程は会社経営にあたっての人的リスクを最小限に抑えることができるからです。一旦問題が起きたときに、規程類がないとどう対処してよいかわからず、従業員は会社に対して不信感を感じてしまいます。それでは従業員がモチベーションをあげて、会社の生産性を上げることは難しくなります。従業員が仕事上で問題を起こした時に、職務規程があることによって、その従業員の仕事内容と責任、権限が明確になり、会社側が正しく対応することが可能になります。諸規定を自社で作成、締結することができない場合は社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。

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