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2023/02/02
社内規程
前回の「2023年4月より、賃金のデジタル払いがいよいよ解禁に①」では、「賃金のデジタル払い」にかかるこれまでの背景や今回解禁となったデジタルマネーについて、概要の解説をしました。
今回は、企業側の具体的な実務対応について、お話しします。
まずは賃金のデジタル払いを実施する場合の企業側の具体的な実務対応について説明します。
今後の賃金の口座振込み等については、今回公表された通達「賃金の口座振込み等について」(令和4年11月28日 基発1128第4号)の内容に沿って指導が行われることになります(平成10年9月10日付 基発第530号は、この指導通達施行をもって廃止。)。
本指導通達より、「賃金のデジタル払い」にかかわる部分を抜粋してご紹介します。
※ここでは、「資金移動業者の指定要件等について」の解説は割愛します。
労働基準法では、賃金は原則として、通貨(現金)によって支払わなければならないと定められています(労働基準法第24条第1項)。例外的に、労働者の同意を得ることを条件として、銀行口座等に振込むことが認められることとされていますが(労働基準法施行規則7条の2第1項)、賃金のデジタル払いについても、これと同様に『同意』は必須条件となっています。
同意に当たっては、同意書の取得が求められ、その同意書には以下の①から④までに掲げる事項を記載しなければなりません。
※2における、指定資金移動業者の口座を特定するために必要な情報は、使用者側で、厚生労働省が公表する指定資金移動業者一覧にて確認することが求められます。
※4については、指定資金移動業者口座の受入上限額を超えた際に超過相当額の金銭を労働者が受け取る場合、指定資金移動業者の破綻時に当該指定資金移動業者と保証委託契約等を結んだ保証機関から弁済を受ける場合等に利用が想定される代替となる口座であり、仮に指定資金移動業者が直接把握する場合においても、使用者も把握するために記載しなければなりません。
事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合と、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者と、次に掲げる事項を記載したに協定(書面又は電磁的記録)を締結することが必要です。
指定資金移動業者口座への資金移動による口座振込み等がされた賃金は、所定の賃金支払日の午前10時頃までに為替取引としての利用(労働者の預貯金口座への出金指図、店舗等における代金支払への充当、第三者への送金指図等)が行い得る状態となっていること及び所定の賃金支払日のうちに賃金の全額が払い出し得る状態となっていることを要します。
取扱指定資金移動業者は、複数とする等、労働者の便宜に十分配慮して定めなければなりません。指定資金移動業者口座への賃金の資金移動を行おうとする場合、預貯金口座への賃金の振込み等も選択できるようにすることが必要です。
使用者は、指定資金移動業者口座への賃金の資金移動を行おうとする場合には、労働者が指定する口座が賃金支払口座として認められている口座であることを厚生労働省が公表する指定資金移動業者一覧にて確認の上、資金移動を行わなければなりません。また、労働者が預貯金口座等への賃金の振込みを選択することができるようにするとともに、当該労働者に対し、次に掲げる必要な事項を説明した上で、労働者の同意を得なければなりません。
※同意については(1)もあわせて参照願います。
①資金移動業者は、預金若しくは貯金又は定期積金等(銀行法(昭和 56 年法律第 59 号)第2条第4項に規定する定期積金等をいう。)を受け入れていないこと。あわせて、資金決済に関する法律(平成 21 年法律第 59 号。以下「資金決済法」という。)等における滞留規制を踏まえ、指定資金移動業者口座への資金移動を希望する賃金の範囲及びその金額(希望額等)は、各労働者において、その利用実績や利用見込みを踏まえ、為替取引に用いられる範囲内に設定する必要があること。また、希望額等の設定に当たっては、指定資金移動業者が設定している口座残高上限額(100万円以下)及び指定資金移動業者が1日当たりの払出上限額を設定している場合には当該額以下に設定する必要があること。
②指定資金移動業者の破綻時には、指定資金移動業者と保証委託契約等を結んだ保証機関により、労働者と保証機関の保証契約等に基づき、労働者に口座残高の弁済が行われること。
③労働者の意思に反して権限を有しない者の指図が行われる等により指定資金移動業者口座の資金が不正に出金等された際に、労働者に過失がない場合には損失額全額が補償されること。また、労働者に過失がある場合には個別対応を妨げるものではないが、損失を一律に補償しないといった取扱いとはされないこと。なお、労働者の親族等による払戻の場合、労働者が資金移動業者に対して虚偽の説明を行った場合等においては、この限りではないこと。損失発生日から一定の期間内に労働者から指定資金移動業者に通知することを要件としている場合には、当該期間は少なくとも損失発生日から30日以上は確保されていること。
④払出(現金化)の手段については、各指定資金移動業者により異なるものの、現金自動支払機(CD)又は現金自動預払機(ATM)の利用や預貯金口座への出金等の通貨による受取が可能となる手段を通じて、少なくとも毎月1回は労働者に手数料負担が生じることなく資金移動業者の口座から払出ができること。
⑤口座残高については、口座に係る資金移動が最後にあった日から少なくとも10年間は債務が履行できるようにされていること。
なお、労働者への説明については、使用者から指定資金移動業者に委託することも認められるものの、労働者の同意については、使用者が得る必要があります。
指定資金移動業者が以下のいずれかに該当する場合、労働者に速やかに賃金支払の別の方法を確認の上、特段の事情がない限り、以降の賃金支払を労働者が指定する別の方法によって行う必要があります。
(1)~(6)をまとめると、次のような手順を踏む必要があります。
上記手順を経た後に、同意書に記載する支払開始希望時期以降、賃金を資金移動業者の口座で受け取ることができるようになります。
今回改正された省令は本年4月1日から施行されますが、実際には4月1日以降に資金移動業者が厚生労働大臣に指定申請を行うことができるようになります。事業者の指定は、申請を受け付けた後、厚生労働省で審査を行い、基準を満たしている場合に行われますが、審査には、数か月かかることが見込まれます。
そのため、指定を受けた資金移動業者の口座において、賃金のデジタル払いが実際に可能となるのは、現実的には4月1日以降、数か月先と考えられます。
繰返しになりますが、賃金のデジタル払いはあくまでも選択肢の一つであり、企業にデジタル払いを強制するものではありません。しかしながら、多くの従業員からニーズがあるようであれば、対応の検討が必要になってくるでしょう。
導入を検討している企業は、今から準備を進めておくことをお勧めします。
厚生労働省では「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」という特設サイトを公開しています。省令・通達、同意書例の他、よくある質問への回答集も掲載されています。参考にされてください。
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