TOP労務コラム2023年4月より、賃金のデジタル払いがいよいよ解禁に①

2023年4月より、賃金のデジタル払いがいよいよ解禁に①

KiteLab 編集部
2023.02.02

1.避けられぬキャッシュレス化の流れ

キャッシュレス決済は私たちの生活の中で急速に普及してきました。
2022年9月に経済産業省が公開した資料「キャッシュレス更なる普及促進に向けた方向性」(※)によれば、2021年の日本のキャッシュレス支払額及び決済比率は32.5%となっており、過去最高水準を記録しています。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大も、近年のキャッシュレス決済の普及を後押しする理由の一つとなりました。結果として、生活には既に非接触型の決済方法が広がっており、今後益々のキャッシュレス化は避けられない流れとなっています。

また、日本政府は2019年6月に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」の中の「キャッシュレス社会の実現に向けた取組の加速」において、「2025年6月までに、キャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度とする」旨のKPI(重要業績評価目標)を掲げています。将来的にはキャッシュレス決済比率を80%にまで引き上げることを目指しており、賃金のデジタル払い実現の背景は、日本のキャッシュレス社会の実現に向けた取り組みのひとつであると考えられます。

このように、キャッシュレス化は日本の成長戦略において主要なテーマになっており、賃金の支払い方法に限らず、社会全体のキャッシュレス化が更に進んでいくことは確実です。

(※)出典:キャッシュレス更なる普及促進に向けた方向性(経済産業省)

2.賃金のデジタル払い解禁へ

前述のとおり、キャッシュレス決済の普及が進み、賃金のデジタル払いへのニーズも一定程度見られるようになったことも踏まえ、今般、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座への資金移動による賃金支払(いわゆる賃金のデジタル払い)ができることとされました。

参考:「労働基準法施行規則の一部を改正する省令」(厚生労働省第158号。令和4年11月28日付公布)

これまで、デジタルマネーによる賃金の支払いは、通貨払いの原則との関係で困難とされてきましたが、本省令改正によって、2023年4月にいよいよ可能となるわけです。

また、厚生労働省は同日に、改正内容を示した通達「労働基準法施行規則の一部を改正する省令の交付について」(令和4年11月28日 基発1128第3号)や、賃金のデジタル払い等を実施する使用者に対して示された通達「賃金の口座振込み等について」(令和4年11月28日 基発1128第4号)等を公表しています。

そこで、今回は「賃金のデジタル払い」の概要(指定資金移動業者に求められる要件等を除く。)について、2回に分けて、企業側の実務対応の観点から解説します。

3.デジタル払いという、賃金支払い方法の選択肢が増える

デジタルマネーと聞くと、交通系電子マネーのようなプリペイド式のデジタルマネー(前払式支払手段)を思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか。現金のデジタルマネー化は一方通行で、再度現金に戻すことはできないというイメージを持つ方もいるかも知れません。

しかし、こうした前払式支払手段は、今回のデジタル払いの対象とはされていません。本改正で解禁されるデジタルマネーは、資金決済に関する法律における「資金移動業」によって行われるものだけです。

出典:資金移動業者の口座への賃金支払について 第178回労働条件分科会(令和4年9月13日)資料NO.1(一部加筆・修正)(厚生労働省)

なお、この資金移動業とは、多くのスマートフォン決済で採用されている方式で、前払式支払手段のデジタルマネーと大きく違うのは、一度自分のデジタルマネー口座に入金したお金を現金や銀行口座に戻すこと、つまり『出金』することが可能な点です。いわゆる『〇〇ペイ』と言えば、イメージしやすいでしょうか。

銀行口座からの出金と比較すると、利用できるATMが少なかったり、そもそもATMが利用できなかったりと不便な点がある部分も見受けられますが、一方で、送金スピードの早さや手数料の安さ等、銀行口座に無い利点もあります。いずれにせよ、口座からの入出金が可能という点で、今回解禁となる賃金のデジタル払いにおけるデジタルマネーは、現金や銀行口座の預金に近い流動性があると考えて問題ないでしょう。

つまり、実務的な観点で見れば、現金や銀行口座等への振込みのほかに「デジタル払い」という選択肢が1つ増えるに過ぎません。

また、前提として、労働者から賃金のデジタル払いを求められたとしても、会社がそれに応じる義務はありません。賃金支払の原則はあくまで通貨(現金)払いであり、それ以外は例外的措置に過ぎないとされているためです。そのため、会社が賃金のデジタル払いをしないと決めれば、これまでと同様の賃金支払実務を行うことも可能です。

次回「2023年4月より、賃金のデジタル払いがいよいよ解禁に②」にて、企業側の具体的な実務対応について解説いたします。

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